花びらを数える日々

チラシの裏、ときどき星の屑

空に夢見る月食前夜

どこか遠く、今よりもずっと高いところへ行きたいと思うとき、僕はよくイカロスの神話を思い出す。 蝋で固めた作り物の翼で飛び、太陽に近づいて墜落した話。作り物の翼でもいいし、太陽まで行く気もないから、空を自由に飛べたらいいなって。

一方で、本物の翼を羨んだりもする。
世の中には、敵わない相手がいる。綺麗事じゃ超えられない壁がある。誰だってそれを知っていて、だから夢を忘れたりする。
人にはそれぞれ背負ってきた過去があって、遺伝子の差もあって、だから、信念や才能の差を感じずにはいられない相手がいる。
その人だけの苦労をすれば、それが他者に負けない強い背景になる。苦労じゃなくても、憧れとか、夢とか、そういった類のものがあれば努力する動機になる。それらはきっと、信念を育む糧になる。 優れた事業やサービスには、そういう信念を持った人が携わっていることが多いように思える。僕はそういうものを見かけるたびに、ああ敵わないな、と感心し落胆する。

彼らにあるのは、きっと本物の翼だ。いくら追いかけたところで、まがいものの翼で追いつけるはずがない。 と、いつもそう思ってしまう。

しかし、人類は作り物の翼で空を飛んだ。ライト兄弟は本当に素晴らしい。彼らが成したのは人類初の有人飛行という夢だけではない。きっと、未来に生きる多くの人々が、彼らの功績に勇気をあたえられたにちがいない。
今では、人は鳥よりもずっと速く空を飛ぶ。作り物の翼が、本物の翼よりも速く飛ぶ。現代を生きていると当然のことのように思えるけれど、これってすごいことだ。
僕らには技術がある。そして技術は生み出す苦労に対して非常に低いコストで、学び活用することができる。 もしかしたら、信念や才能という圧倒的な差でさえも、技術の活用によっては覆すことができるのではないか。

イカロスの神話が説くのは傲慢さや慢心、技術への過信が身を滅ぼす、というものだろう。それなら、正しい心を持って技術を用いれば、きっと自由に空も飛べるはず

そういえば、明日は皆既月食ブルームーンというちょっとした奇跡が起きるのだけれど、あいにくの天気らしい。 もしも空を飛べたなら、雲のうえから美しい星空が見たいものだなぁ。